自動車車体整備士とはどのような資格で、どのような業務を行う仕事なのでしょうか。
今回は、車体整備士の担当業務や関連する資格、試験概要、車体整備士資格を取得するメリット、キャリアアップの方法などについて説明します。
車体整備士とは
車体整備士は、車のフレームやボディの修理・点検を行う専門家です。自動車の車体に関する高度な知識と技術を持ち、事故などでダメージを受けた車のボディやフレームを修復する重要な業務を担っています。
車体整備士は、特殊整備士と呼ばれる国家資格の一つです。この資格を持っていると、車体整備や板金塗装の仕事に就く際に有利になります。
車体整備士が担当する3つの業務
車体整備士が担当する3つの業務について説明します。
1. 自動車フレームの修理・点検
自動車のフレーム部分の点検・整備・修理を行い、安全性を保持します。
フレームとは自動車の骨組み・土台にあたる部分で、車両の形状を保つうえで重要な役割を担うものです。走行時の安定性に大きな影響を与える部分であり、フレームが歪んだまま運転すると、バランスが取れず正常な走行が困難になります。
フレームの状態は車検の検査対象になっているため、歪みや変形が生じた場合は、できるだけ早く修理する必要があります。
フレームの矯正は、フレーム修正装置という特殊な機械を使って元の形に戻す作業です。修復が必要な箇所が複数ある場合はフレーム修正ではコストが高くなるため、フレーム部分の交換を行うこともあります。
2. 自動車ボディの修理・点検
自動車のボディの点検・整備・修理によって、外観と安全性の両面に配慮した適切なメンテナンスを実施します。
事故でボディが凹んだ場合、裏からハンマーで叩けばある程度、修復することは可能です。しかし完全には修復できず、傷跡が残ってしまいます。車体整備士は、ハンマーや溶接、パテなどを使って傷跡が目立たないように修理を行います。
3. 自動車の板金塗装
自動車の板金塗装は、板金技術と塗装技術によって壊れた自動車を元に戻す業務です。
ボディが凹むほどのダメージを負っていれば、塗装もはげているでしょう。
そのままでは傷跡が依然として目立ってしまうので、ボディと同じ色の塗料で塗装します。ボディとまったく同じ色の塗料を作ったり、ムラなく塗ったりするためには高度な塗装スキルが必要です。
車体整備士と自動車整備士の違い
車体整備士は特殊整備士の一つで、車体整備を専門的に行う資格です。一方の自動車整備士は主に自動車のエンジンや駆動、制動に関する装置を整備する資格で、一~三級があります。
自動車整備士の各級で必要とされる技能レベルと資格の種類は、下表の通りです。
級 | 要求される技能レベル | 種類 |
一級自動車整備士 | 二級自動車整備士より高度な自動車の整備ができること | ・一級大型自動車整備士・一級小型自動車整備士・一級二輪自動車整備士 |
二級自動車整備士 | 自動車の一般的な整備ができること | ・二級ガソリン自動車整備士・二級ジーゼル自動車整備士・二級自動車シャシ整備士・二級二輪自動車整備士 |
三級自動車整備士 | 自動車各装置の基本的な整備ができること | ・三級自動車シャシ整備士・三級自動車ガソリン・エンジン整備士・三級自動車ジーゼル・エンジン整備士・三級二輪自動車整備士 |
特殊整備士の3つの種類
専門分野に特化した特殊整備士は、以下の3つに種類分けされています。
自動車車体整備士
自動車車体整備士は、自動車のフレームやボディの点検・修理などをプロフェッショナルとして行うための資格です。
自動車車体整備士資格は、自動車の板金塗装に携わっていきたいと考えている整備士に適しています。
自動車電気装置整備士
自動車電気装置整備士は、バッテリーや電子制御装置、冷暖房装置といった電気装置の点検・修理を行うための資格です。
ハイブリッド車や電気自動車といった次世代カーに搭載された最新の電気装置を整備するには、専門的な知識やスキルが求められます。自動車電気装置整備士の資格を取得すれば、最先端の自動車技術に対応する整備スキルを身につけることができます。
自動車タイヤ整備士
自動車タイヤ整備士は、タイヤの交換・修理・点検などを行う資格です。
近年の自動車の安全性や環境配慮への意識の向上によって、タイヤ整備の専門家である自動車タイヤ整備士の重要性が改めて評価されています。
車体整備士試験の内容や合格率
車体整備士試験の概要について、以下の4点から説明します。
1. 技能検定試験と登録試験の違い
自動車車体整備士の資格を取る条件は、国家試験に合格することです。車体整備士試験には、国土交通省が実施する「技能検定試験」と、一般社団法人日本自動車整備振興会連合会(日整連)が実施する「登録試験」があります。
日整連は、国土交通大臣の登録を受けた登録試験実施機関で、日整連が実施する登録試験に合格すれば、国の技能検定試験が免除されます。
国が行う技能検定試験は実技試験のみです。学科試験は、日整連の登録試験だけで実施されます。
登録試験に合格すると、技能検定試験が2年間免除されます。免除を受ける際には、有効期間内に各都道府県の自動車整備振興会で免除申請手続きが必要なので、注意しましょう。登録試験に合格しても申請をしなければ、技能検定試験が免除されません。
2. 試験の内容
日整連が実施する自動車車体整備士登録試験の試験内容を、以下の表にまとめました。
試験日 | 年2回 ※学科試験1日・実技試験1日 |
試験内容 | 【学科試験】1. 構造、機能及び取扱法2. 点検、修理、調整及び完成検査の方法3. 整備用機械に関する初等知識4. 整備用の試験機、計量器及び工具の構造、機能及び取扱法5. 材料の性質及び用法6. 図面に関する一般知識7. 保安基準その他の自動車の整備に関する法規 【実技試験】1. 基本工作2. 点検、分解、組立、調整及び完成検査3. 修理4. 整備用の試験機、計量器及び工具の取扱 |
受験資格 | 15 歳以降の実務経験が2年以上ある者、または1 種養成施設の車体課程修了者等※実務経験が短縮される場合がある |
出題数 | 【学科試験】40問【実技試験】3問 |
合格基準 | 【学科試験】・40点満点に対して28点以上の成績 |
3. 近年の受験者数・合格率の推移
近年の自動車車体整備士の登録試験の受験者数と合格率は、下表の通りです。
年度 | 申請者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率(%) |
令和5年度第1回 | 341 | 334 | 267 | 79.9 |
令和4年度第2回 | 765 | 755 | 701 | 92.8 |
令和4年度第1回 | 232 | 226 | 189 | 83.6 |
令和3年度第2回 | 672 | 664 | 637 | 95.9 |
令和3年度第1回 | 182 | 179 | 154 | 86.0 |
令和2年度第2回 | 796 | 790 | 767 | 97.1 |
令和2年度第1回 | 81 | 81 | 72 | 88.9 |
令和元年度第2回 | 728 | 724 | 695 | 96.0 |
令和元年度第1回 | 206 | 202 | 177 | 87.6 |
平成30年度第2回 | 740 | 730 | 701 | 96.0 |
平成30年度第1回 | 177 | 172 | 130 | 75.6 |
平成29年度第2回 | 765 | 758 | 735 | 97.0 |
平成29年度第1回 | 117 | 115 | 86 | 74.8 |
平成28年度第2回 | 661 | 649 | 600 | 92.4 |
平成28年度第1回 | 122 | 120 | 87 | 72.5 |
平成27年度第2回 | 706 | 699 | 652 | 93.3 |
平成27年度第1回 | 209 | 206 | 164 | 79.6 |
平成26年度第2回 | 722 | 716 | 673 | 94.0 |
平成26年度第1回 | 125 | 121 | 96 | 79.3 |
4. 試験の対策方法
自動車車体整備士の学科試験に向けた最も効果的な勉強方法は、過去問題を解くことです。
日本自動車整備振興会連合会のサイト上で過去問題と解答が公開されており、無料で利用できます。
過去問題をできるだけ多く解くことで、出題の傾向を把握し、試験準備を着実に進めることができます。
実技試験が免除される講習とは
自動車整備技術講習を受けることで、車体整備士試験の技能試験が免除されます。車体整備士向けの講習は、各都道府県の自動車整備振興会が開催します。
東京都の自動車整備振興会が行っている講習概要は、下表の通りです。
講習回数 | 全19回 |
講習開催日時 | 4月~9月の日曜日/9時30分~16時30分 |
受講資格 | 実務経験1~2年 ※学歴によって異なる |
受講料 | 会員 78,500円/非会員 146,500円※テキスト代、保険料、税金などを含む |
車体整備士になる3つのメリット
車体整備士資格を取得することで期待できる、主なメリット3つについて説明します。
1. ニーズの高い車体整備のスキルを習得できる
自動車のボディが高度化するにつれてニーズが高まっている、車体整備の専門知識・スキルを習得できます。
自動車を安全に長期間使用できるように、適切な車体のメンテナンスを行うことが、車体整備士の業務の目的です。自動車の車体が高度化、精密化し続けている状況の中で、車体整備士の持つ専門スキルが求められる機会は今後さらに増加することが予想されます。
車体整備士資格を取得することによって、勤務先や顧客から自動車のボディやフレームの修理・点検、塗装の専門家として高く評価されることにもなります。
2. 資格手当などにより収入アップが期待できる
車体整備の専門知識・スキルを身につけることで、資格手当や職能手当の受給などによる収入アップが期待できます。
低燃費のための車体軽量化や安全性を高める衝撃吸収構造、耐久性を向上させるボディや塗装など、車体に用いられる技術は急速に進歩しています。そうした最新の技術に対応できるスキルや知識を持つ車体整備士は、整備工場やディーラーから好待遇で雇用される可能性の高い専門職です。
3. 転職をする際のアピールポイントになる
重要性が高まっている車体整備の専門スキルを備えていることは、転職する際に大きなアピールポイントになるものです。
自動車のフレームやボディは、他の自動車部品と違って交換が容易ではありません。そのため、プロとして車体の修復を実践できる車体整備士のニーズは非常に高くなっています。
整備工場や板金塗装工場だけでなく、ディーラーにおいても整備や修理を重視する傾向が高まっています。車体整備士の有資格者は、高度な車体修理・修復を行える人材として、高く評価されることが期待できるでしょう。
車体整備士のキャリアアップを実現する3つの方法
車体整備士がキャリアアップを図る際の、主な方法3つを紹介します。
1. 2級以上の自動車整備士資格取得を目指す
専門学校などで2級以上の自動車整備士資格を取得すれば、1年の実務経験を経て、車体整備士の受験資格が与えられます。
キャリアップのために車体整備士の取得を目指す場合は、まず2級以上の自動車整備士資格を取得する方法がおすすめです。整備士資格を取ったうえで、ディーラーや民間整備工場に入社すれば、経験を積みながら車体整備士を目指すことができます。
2. 講習やセミナーに参加して最先端の知識を身につける
整備士向けの各種講習会やセミナーなどに積極的に参加し、次世代カーや自動車の最新技術についての知識を深めていきましょう。
車体整備に関連する最新の技術やスキルを習得することによって、自動車整備のプロとしての能力を高め、キャリアアップにつなげることができます。
3. マネジメント能力を高めて管理職をめざす
他の整備スタッフの業務を管理するマネジメントスキルを高めることで、管理職をめざすことができます。
マネジメント業務や顧客対応といった整備以外の業務スキルを習得することで、主任整備士や工場長、マネージャーなどの役職に就くことが可能になります。
管理職になることで職場での責任は重くなりますが、着実にキャリアアップを図ることのできる方法です。
整備士の転職に関する悩みはプロへの相談がおすすめ
車体整備士としてのキャリアアップを実現するために転職を検討する際には、整備士の転職に特化したエージェントに相談してみましょう。転職の目的や条件に合ったアドバイスやサポートを受けることができます。
タウ転職は、自動車整備士をはじめとする自動車業界の求人に特化した転職エージェントです。自動車関連業界の10万社もの企業とのネットワークを活かし、整備士の転職活動を全面的にサポートします。
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まとめ
今回は、自動車の車体整備に特化した専門資格である自動車車体整備士をテーマに取り上げました。ここで紹介した情報を参考にして、整備士としてのキャリアアップを実現させてください。